どんな“医療”もリスクを伴う可能性はある
3月30日付けの「日経ライフスタイル健康」に、掲載されていた記事です。(筆者は真野俊樹氏)。 私がこのブログやホームページに、いつも書いている内容と同じ趣旨なのですが、医師の中にも同じ意見を持っている方がいるようです。
多くの方に知っていて欲しい記事ですし、サイトが削除されることもありますので、いつものように全文引用しておきます。
いたるところ“健康”ブームですが、ここでひとつ警鐘を鳴らしておこうと思います。健康は、“医療”行為や“予防”行為で達成されたり、維持されるものです。その中には、「食事に気をつける」「運動する」といったものから、「サプリメントを飲む」「人間ドックを積極的に受ける」「薬を飲む」といったものまで、さまざまな行為が含まれます。
実は、こういった行為のほとんどすべてに、薬剤でいう副作用のようなリスクが伴うことは意外に知られていないのです。逆に今まで、毒だ、薬害だといわれていたものに効果が見つかったりもするものなのです。
「サリドマイド」という名前は聞いたことがあると思います。サリドマイドは1957年に西ドイツ(当時)のグリュネンタール社から発売された睡眠薬の名称で、もともとはてんかん患者の抗けいれん剤として開発されました。
当初、副作用も少なく安全な薬と宣伝され発売されたのですが、その後、これを服用した妊婦から手足が異常に短い先天異常児が多く生まれることが分かり、発売中止となったものです。日本でも被害者は300人以上に上り、薬害の代表として挙げられています。
ところがこの薬剤が、難治性の血液疾患である、「多発性骨髄腫」(注)の治療薬として復活しそうなのです。癌細胞が増える際には、がん細胞に栄養や酸素を運ぶため新たな血管が必要です。この際に新しい血管が増えることを「血管新生」といいますが、サリドマイドには、がん組織への毛細血管の成長を阻害する作用があるため、その結果、がんへの治療効果があることが分かってきたのです。
さらに1989年には、がん患者の体力消耗や食欲不振の原因となる腫瘍壊死因子α(TNF-α)の阻害作用が発見されました。サリドマイドは、つい最近、多発性骨髄腫への治験が終了したところなのです。
逆に、メディアなどでもてはやされているものでも、リスクがある場合があります。例えば、「PET検査」。PETとは、ポジトロン・エミッション・トモグラフィ(Positron Emission Tomography)の略です。この検査は、生体内の糖代謝を反映する18F-fluorodeoxy glucose(FDG)という物質が悪性腫瘍によく集まることが注目されてから、がんの早期診断にいいのではないか――ということで人間ドックで多用されるようになりました(参考記事:「話題の『PETがん検診』体験ルポ」)。
米国では、主に高齢者を対象とした保険システムであるMedicareが、一部のFDG-PET検査の保険償還を認めてから、FDG-PET検査が急増しました。1997年から2年間に年間の検査件数が倍増してきたという背景もあります。
しかし、米国での保険適用は、がんの転移の発見が目的であり、必ずしもがんの早期発見が目的ではないのです。日本でも2002年4月の診療報酬改訂で、PET検査は保険適用となりました。しかし、米国でも日本でも、PET検査による人間ドックが推奨されたわけではありません。
最近では、人間ドックについてはCTやMRIなど他の検査との併用が普通になっていますが、一時期はPET-Firstなどと言って、「がんが疑われるとすべてPETを行う」といった風潮も見られたことは事実です。しかし、PETでがんが見つからなかったことは、がんがないことを意味しません(参考記事:「人気のPETがん検診にも“取りこぼし”」)。
また、PET検査ではさほど問題にならないと言われますが、放射線の被曝も重要な問題です。PET検査1回あたりに受ける放射線被曝量は、人が普通に暮らしていて、自然界から受ける年間放射線量とほぼ同じです。なお、胃のX線検査では、1回の検査でおよそその2倍とされています。
ですから、医療に関しては「すべて100%ではない」と考える思考が重要です。“確率論的思考”とでも言いましょうか。たとえとして不適切かもしれませんが、宝くじに当たる確率は低いながらも存在しているわけで、それと同じように医療でトラブルが起きる可能性も考えねばならないわけです。

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